「三鈷峰」解説

2022年12月7日に投稿
  • 解説
  • 詰将棋
  • 1
    「三鈷峰」
    2
    「三鈷峰」
    ☗3八金  ☖同 玉  ☗4七歩  ☖4八金
    ☗2八と寄 ☖同香成  ☗同 と  ☖3九玉
    ☗6九龍  ☖2八玉  ☗2九香  ☖3八玉
    ☗2七銀  ☖4七玉  ☗5七と  ☖同 玉
    ☗5六と  ☖同 玉  ☗5五金  ☖同 玉
    ☗5八香  ☖同 金  ☗同 龍  ☖6四玉
    ☗6七龍  ☖6五香  ☗5三銀不成☖6三玉
    ☗7三金  ☖同 と  ☗6五龍  ☖7二玉
    ☗7三と  ☖8一玉  ☗8二歩  ☖9一玉
    ☗8三桂  ☖同 金  ☗9二香  ☖同 玉
    ☗8三と  ☖同 玉  ☗8四金  ☖同 玉
    ☗6一歩成 ☖7三桂  ☗同角成  ☖同 玉
    ☗7五龍  ☖8三玉  ☗8六龍  ☖8五角
    ☗7五桂  ☖8四玉  ☗9五金  ☖7三玉
    ☗6四銀成 ☖7二玉  ☗6三桂成 ☖6一玉
    ☗5二成桂 ☖同 角  ☗6二歩  ☖7二玉
    ☗7六龍  ☖7四桂  ☗7三香  ☖8三玉
    3
    ☗9三歩成☖同 玉 ☗8四金 ☖8二玉
    ☗7二香成☖同 玉 ☗7三金 ☖7一玉
    ☗6三桂 ☖同 角 ☗6一歩成☖同 玉
    ☗6二金 ☖同 玉 ☗6三成銀☖同 玉
    ☗5二角 ☖5四玉 ☗7四龍 ☖5五玉
    ☗4四龍 ☖同 玉 ☗4五飛 ☖3四玉
    ☗3五飛 ☖2四玉 ☗3六銀 ☖2六桂
    ☗1六桂 ☖1四玉 ☗1五飛 ☖同 玉
    ☗2六と ☖1四玉 ☗2五銀 ☖同 桂
    ☗同 と ☖1三玉 ☗1二と ☖同 玉
    ☗1一と ☖同 玉 ☗2一歩成☖同 玉
    ☗1三桂 ☖1一玉 ☗1二歩 ☖同 玉
    ☗2四桂打☖同 歩 ☗同 桂 ☖2三玉
    ☗2二角成☖同 玉 ☗3二桂成☖1二玉
    ☗2二成桂☖同 玉 ☗3四と ☖2四歩
    ☗2一桂成☖同 玉 ☗3一桂成☖1一玉
    ☗2一成桂☖同 玉 ☗2四香 ☖2三銀
    ☗4三角成☖1一玉 ☗1二歩 ☖同 銀
    ☗2一香成☖同 銀 ☗同 馬 ☖同 玉
    ☗3二銀 ☖1一玉 ☗1二歩 ☖同 玉
    ☗2三と ☖1一玉 ☗2一銀成 ☖同 玉
    ☗3二香成☖1一玉 ☗2二と
    まで百十五手詰。

    詰将棋パラダイス2021年11月号大学院
    令和3年度看寿賞長編部門
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    「力草90番」
    途中図1
     持駒香歩4の詰将棋(力草90番)を見て、「煙詰にできそうだな」と思ったのが「三鈷峰」創作のきっかけです。数多くの本や記事で引用されている有名な古図式で、簡素な初形から☖2三銀中合という妙防が飛び出すところに惹かれました。
     
     そして出来たのが途中図1です。力草90番にあった☗2三香成と☗2三との余詰を消しながら煙詰化することに成功しました。
     意外にもギリギリのバランスで成立していて、例えば5二角を馬に変えると余詰が発生。6一に置くと詰まなくなります。
    5
    途中図2
    途中図3
     さらに発展させて☖2四歩中合を入れました(途中図2)。比較的少ない駒数から中合が2回出るミニ煙で、これでも十分発表価値はあります。しかし、折角なら全駒配置まで逆算したいと思うのが煙詰作家の性です。とことん逆算していきます。

     紆余曲折ありましたが、欲張りに欲張って☖2六桂中合も入れました(途中図3)。これで、☖2六桂、☖2四歩、☖2三銀と計三種の中合が出たことになります。
     煙詰としては右上に駒を詰め込むことができて良いペースと言えるでしょう。
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    途中図4
     銀2枚と飛を使い、無理矢理左辺に橋渡ししました(途中図4)。
     さて、ひと段落したところですが、問題になってくるのがここからの逆算方針です。収束が狙いであれば全駒煙になるという理由以外で全駒まで逆算するという意味がありません。
     そこで、次の条件のいずれかを達成することを全駒まで逆算することの理由としました。
    ①左辺でも香を使用した多段中合を出して対称性を出す。
    ②全駒まで逆算する過程で合駒を出しまくり手順の統一感を出す。
    ③序盤で☗2九香を打ち収束との関連性を生み出す。
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    途中図5
    途中図6
     先に結論を述べると、そもそも単純に逆算するだけでも困難を極め、①の可能性は早々に消えました。
     ②の足掛かりとして、まずは桂合を発生させました(途中図5)。使える駒種は多い方が逆算の幅が広がるため良く、特に桂は一番使いやすい駒で重宝します。欲しい駒が足りなくなったら、合駒で稼ぐというイメージを持って創作すると逆算が繋がりやすいです。
     ☖7四桂合の要となる角を動かし、さらに合駒として出すことに成功しました(途中図6)。この局面に至るまでにかかった時間は約3年。ようやく手応えを感じ始めます。
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    途中図7
    途中図8
     途中図6から途中図7までは、ほぼ一本道ですぐに辿り着きました。☖6五香合は、☗7四金、☖5五玉、☗5七龍、☖5六合、☗6七桂に☖同香を見た限定合です。4七には飛の利きがあります。
     途中図7から逆算できるか際どいところでしたが、幸運にも一つだけ繋がる道がありました(途中図8)。しかも、③の☗2九香と☗2七銀も入るという嬉しいサプライズ付き。前述の条件の内2つを達成することができました。この2手が入ることで後の三段中合への伏線となり、手順全体にストーリーが生まれ一気に引き締まります。
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    完成図
     最後に金合を発生させて、三種中合含む六種八合煙が完成しました。
     作品名「三鈷峰」は鳥取県にある大山系の山の名前です。1枚の香に対して中合が3つ連なるところから、上谷直希氏に命名いただきました。
     創作期間は3~4年。高校生活と大学生活の前半をこの作品に費やしたと言っても過言ではないほど熱意を込めて創作した一局です。特に苦労したのは左辺に入ってからの逆算で、ただ全駒配置に向けて逆算するだけでも難しく、先の見えない戦いでした。妥協した逆算に未来はなく、長い長い時間をかけ必死に絞り出した手順だけが全駒に繋がる道だったのは幸運と言わざるをえません。
     そしてありがたいことに令和3年度看寿賞長編部門受賞。一生思い出に残る大切な作品になりました。
    たいやきが好きな詰将棋作家です。 令和4年度看寿賞受賞