はじめに
棋譜並べとは、プロの実戦棋譜を盤と駒を用いて再現する勉強法である。
棋譜並べでは並べる過程を通じて、プロの思考や指し手の流れを体感することを目的としている。また、符号を読む練習や駒の位置感覚の向上にも適しており、盤・駒・棋譜さえあれば始められる手軽さも魅力だ。
この棋譜並べの質を高めるには、ただ受動的に駒を動かすだけでなく、指し手の意図を推測したりと、能動的に思考しながら並べることが望ましいとされる。そうすることで局面理解が深まり、棋力の向上が促されるという。
しかし実際には、能動的に考えながら棋譜を並べることは容易ではない。意識的に取り組んだつもりでも、気づけば受け身の作業に戻ってしまうことが多いのではなかろうか。
本記事では、棋譜並べにおいて能動的思考が難しい理由を整理し、それを引き出すための方法を試案する。
棋譜並べが難しい理由
1. 並べること自体が負荷の高い作業
棋譜並べは単純に見えるが、実際には次のような複数の処理を同時に行っている。
棋譜を目で追い、駒の位置と動きを把握し、盤面を確認しながら正確に再現する──これらはいずれもワーキングメモリを使う作業だ。
経験者なら、「今どこまで並べたっけ?」と直前の手を探したり、駒がいつの間にか乱雑になっていた経験があるだろう。これは、並べる作業そのものが脳内のリソースを占有し、他の情報を保持する余裕を奪うためである。
さらに、名局集のような分厚い本を片手に持つ姿勢も地味ながら身体的な負担となる。
こうした要因により、並べるだけで負荷が高く、並行して解説文を読む・局面を深く考えるといった作業は難しくなる。
2. プロの指し手は理解が難しい
プロの着手は、入念な戦法研究、鋭い直観、深い読み、棋風による好み、さらには人間的な見落としまで、複数の要因が絡み合って決定される。
この背景をすべて理解するには、高い棋力と戦法の知識が必要であり、級位者〜有段初級者では推察すら難しい場合が多い。
そのため、並べながら「なぜこの手なのか」を考えようとしても、よく分からないまま時間だけが過ぎ、やがて思考自体を放棄してしまう。
結果として、棋譜並べが受け身の作業になり、「ただ駒を動かしただけ」で終わってしまうのである。
3. 誤学習のリスク
プロの棋譜は精度が高く、アマの犯すような単純な見落としはほとんどない。それでも、人間である以上、緩手や戦略的な疑問手が指されることはある。
わずかな緩手であっても、それを正しい手だと思い込んでしまえば誤学習となる。この点を気にする学習者も少なくないだろう。誤った知識を取り込むのではないか、という不安が、学習意欲や能動性を削ぐこともある。
解決策の試案:自己評価棋譜並べ
以上の課題を解消するため、筆者は「自己評価棋譜並べ」という方法を提案する。
方法はシンプルだ。棋譜並べの際、5手ごとに局面を7段階(勝勢・優勢・有利・互角・不利・劣勢・敗勢)で自己評価し、その記録を残す。並べ終わった後、AI解析を行い、自分の評価とAIの評価を比較する。
狙いは、局面評価を通じて、棋譜並べに能動的な思考プロセスを組み込むことにある。プロの意図を読み解くことは難しくても、駒得・玉の堅さ・手番・駒の利きといった大まかな要素を基に局面の良し悪しを判断することは、級位者でも十分にできる。また、選択肢は7段階しかないため、迷ってもいずれかを選びやすく、級位者でも取り組みやすい。
さらに、自己評価とAI評価を照合すれば、即時的なフィードバックが得られるため、誤学習のリスクを抑える効果も期待できる。
なお、「並べる作業自体の負荷」については、根本的な解消には至らない。ただし、デジタルツール(lishogi、将棋GUIなど)を活用することで、実物の盤を用いた場合よりもUIの補助が得られ、認知的負荷は相対的に軽減されると考えられる。
次の項では実践例を解説する。
実践例
ここでは、PC版lishogiを使った実践例を示す。あくまで一例なので、必ずこの方法に従う必要はない。
使うもの
手順
1. 研究ページを作成
lishogiの研究機能で1つの研究ページを作り、同じページを2つのウィンドウで開く。
2. 画面配置
下画像のように左右に並べる。右側ページの評価ボタンは下へスクロールすると表示される。
Windowsなら「Windowsキー+右矢印キー」でウィンドウを自動配置できる。
3. 棋譜を並べる
実際に棋譜を並べ、5手ごとに形勢を自己判断し、右画面の評価ボタン(互角なら「Equal position」など)で記録する。
4. AI解析
並べ終わったらAI解析で答え合わせをする。盤下のグラフアイコン(右から4番目)から解析可能だが、処理に時間がかかる。
そのため、検討モードで答え合わせすることを推奨する。指し手右上の〇をクリックすると起動できる。
自己評価とAI評価の正誤判定は、将棋GUIの評価値に換算して行う。以下の換算表を参考にしてほしい。
換算表
局面評価の7段階換算表(将棋GUI ↔ lishogi)| 評価 | 将棋GUI(点) | lishogi(小数) |
|---|
| 勝勢 | +1500 以上 | +15.00 以上 |
| 優勢 | +800 ~ +1499 | +8.00 ~ +14.99 |
| 有利 | +300 ~ +799 | +3.00 ~ +7.99 |
| 互角 | -299 ~ +299 | -2.99 ~ +2.99 |
| 不利 | -799 ~ -300 | -7.99 ~ -3.00 |
| 劣勢 | -1499 ~ -800 | -14.99 ~ -8.00 |
| 敗勢 | -1500 以下 | -15.00 以下 |
注意点
使用するAIによって、評価値の精度や傾向には違いがある。
そのため、同じ局面でも評価が一致しない場合がある。
例えば、特定のAIは振り飛車を過剰に低く評価することがある。
こうした違いはAIごとの特徴として受け止め、「そういう見方もあるのか」程度に留めるのがよい。
本記事では局面評価は能動的思考のきっかけに過ぎず、AI評価値との照合はあくまで参考情報として扱うことをおすすめする。
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